複数の生成AIをアプリに組み込むと、モデルごとにAPIキー、請求、障害対応、利用状況の確認方法が分かれてしまいます。Vercel AI Gatewayは、アプリと各AIプロバイダーの間に置く共通の窓口です。ひとつのAPIキーで複数のモデルにアクセスでき、プロバイダーへの振り分けや利用額の把握もまとめて扱えます。Vercelの製品ページによると、テキストに加えて画像・動画・音声などのモデルにも対応しています。
この記事では、導入を検討するときに気になる「何が便利なのか」「月5ドルの無料枠で何ができるのか」「モデルをどう選ぶのか」を、2026年10月7日時点の公式資料で確認します。モデルの追加や単価は随時変わるため、個別の価格は公式モデル一覧で再確認してください。
AI Gatewayは何をするサービス?
AI Gatewayを使う場合、アプリからOpenAI、Anthropic、GoogleなどのAPIを個別に呼ぶ代わりに、AI Gatewayへリクエストを送ります。モデルは openai/gpt-6-astra のような 開発元/モデル名 形式で指定します。Gatewayはリクエストを対応するプロバイダーへ転送し、利用量と費用をVercel側で確認できるようにします。公式概要によれば、予算設定、リクエストログ、利用状況のダッシュボードも用意されています。
たとえばアプリに「OpenAIのモデルで回答する機能」と「Anthropicのモデルで文章を確認する機能」がある場合、モデルごとの接続や請求を個別に管理する負担を減らせます。Vercelにデプロイしていないアプリからも利用できます。認証ドキュメントは、APIキーをローカル開発環境や外部サーバー、CIから利用できると案内しています。
AI SDKとの関係
名前が似ていますが、AI SDKはアプリのコードからAIを扱うためのライブラリ、AI Gatewayはモデルへの接続・ルーティング・請求などを扱うサービスです。両者は組み合わせて使えるほか、OpenAI互換やAnthropic互換のAPIからGatewayを呼ぶこともできます。既存のOpenAI SDKやAnthropic SDKを使う場合は、APIキーとベースURLをGateway向けに変更する方法が公式に示されています。
対応モデルはどう調べる?
AI Gatewayのモデル一覧では、モデル名に加えて入力・出力の料金、レイテンシ、利用できるプロバイダー、ZDR(ゼロデータ保持)や学習利用の制限、無料クレジットの対象可否などを比較できます。テキストだけでなく、画像、動画、音声、埋め込み、文書のリランク(再ランキング)なども対象です。モデル名や料金は、記事などに掲載された一覧だけで判断せず、この公式一覧で検索するのが確実です。
選ぶときは、次の順番で確認すると迷いにくくなります。
- 用途:文章生成、画像生成、文字起こしなど、必要な種類で絞る。
- 利用資格:無料枠で試すなら「Free AI Gateway Credit」の対象か確認する。
- 費用:入力・出力の単価と、画像1枚・動画1秒などの課金単位を確認する。
- 運用条件:対応プロバイダー、速度、ZDRや学習利用に関する条件を確認する。
同じモデルでも、提供するプロバイダーによって価格や機能が異なる場合があります。公式料金ドキュメントも、モデルの詳細画面でプロバイダーごとの料金内訳を確認するよう案内しています。
料金:月5ドルの無料枠と従量課金
Vercelは、AI Gatewayではモデル利用料に対するトークンの上乗せ料金やプラットフォーム料金がかからないと説明しています。ただし「すべて無料」という意味ではありません。利用したモデルの料金が発生するほか、決済手数料や任意の追加機能の料金が別にかかる場合があります。公式料金ページとレート制限のドキュメントに基づく違いは次の通りです。
項目 | 無料枠 | 有料枠 |
|---|---|---|
クレジット | 毎月5ドル分 | 購入したクレジットから従量課金 |
利用できるモデル | 無料枠の対象モデルのみ | 提供中の全モデル |
モデル利用料金 | プロバイダーの公表価格に上乗せなし | 同左 |
レート制限 | モデルごとに低めの上限あり | AI Gateway側の制限なし(プロバイダー側の制限は適用) |
自分のプロバイダーAPIキー(BYOK) | 利用不可 | 利用可能 |
月5ドル分の無料クレジットは、最初のAI Gatewayリクエストを送った時点から適用が始まります。無料クレジットを使うには、チームに有効な支払い方法を登録しておく必要があります(公式の導入手順)。クレジットを購入すると有料枠へ移行し、月5ドルの無料クレジットは適用されなくなります。購入したクレジットの有効期限は購入から1年です(公式FAQ)。
また、無料枠で全モデルを試せるわけではありません。使えるモデルは無料枠の対象モデル一覧で確認してください。無料枠のレート制限を超えるとHTTP 429 が返ります。その場合はしばらく待ってから再試行してください。retry-after ヘッダーが付いていれば、その秒数に従います(レート制限の説明)。
なお、ここでいう「無料枠・有料枠」はAI Gatewayのクレジットの区分です。Vercel本体のHobby・Pro・Enterpriseといったプランとは別の軸なので、後述する追加機能の「Pro・Enterprise限定」とは分けて考えてください。
「上乗せなし」でも確認したい費用
トークンへの上乗せはない一方で、料金ページの追加機能欄には別料金の機能が載っています。2026年10月7日時点の主な例は次の通りです。
追加機能 | 料金の例 | 条件・請求先 |
|---|---|---|
Custom Reporting | タグ・ユーザーIDなどの書き込み1,000件あたり$0.075、集計クエリ1,000回あたり$5 | AI Gateway Credits |
チーム全体のプロバイダー許可リスト | 成功したリクエスト1,000件あたり$0.10 | Pro・Enterprise、AI Gateway Credits |
チーム全体のZDR | リクエスト1,000件あたり$0.10(成功したリクエストのみ課金) | Pro・Enterprise、AI Gateway Credits |
Trace Drains | 1,000トレースあたり$0.05、転送1GBあたり$0.50 | Pro・Enterprise、VercelのDrains利用料として請求 |
リクエスト単位の only フィルターは全プランで追加料金なしで利用でき、リクエスト単位のZDRはPro・Enterpriseで追加料金なしとされています。
つまり費用を見積もる際は、モデル料金、決済手数料の有無、使う追加機能を分けて確認する必要があります。画像・動画などではトークン以外の単位も使われるため、実際の単価はモデル詳細画面で確認してください。
AI SDKで最初のリクエストを送る
公式のテキスト生成クイックスタートに沿った最小例です。VercelのダッシュボードでAI GatewayのAPIキーを作成し、Node.js 22.18以降と ai パッケージを用意します。以下のPowerShell例では、キーを現在のターミナルの環境変数に設定します。実際のキーをコードやGitに保存しないでください。
pnpm add ai@latest
$env:AI_GATEWAY_API_KEY = "取得したAPIキー"index.mts を作成します。モデルIDは公式クイックスタートの例です。
import { streamText } from 'ai';
const result = streamText({
model: 'openai/gpt-6-astra',
prompt: 'Vercel AI Gatewayを日本語で一文で説明してください。',
});
for await (const part of result.textStream) {
process.stdout.write(part);
}
console.log();node index.mtsopenai/gpt-6-astra は購入済みクレジットを消費する前提の例です。無料枠で試す場合は、コード中のモデルを無料枠対象のモデルのIDに置き換えてください。対象外のモデルを使うにはクレジットの購入が必要です。なお、本記事の手順は公式例をもとにしたもので、執筆時に課金を伴うAPIの実行は行っていません。
障害時の切り替えは2種類
AI Gatewayの強みのひとつがルーティングです。プロバイダー設定の資料によれば、標準では最近の稼働状況とレイテンシを踏まえてプロバイダーを選びます。同じモデルを複数のプロバイダーが提供している場合は、ある提供元で失敗しても別の提供元へ切り替えられます。ただし、提供元が1社しかないモデルでは、プロバイダー間の切り替えは起きません。
さらに、別のモデルへ切り替える設定もできます。モデルフォールバックの資料では、主モデルが使えないときに試すバックアップを providerOptions.gateway.models に並べます。
import { generateText } from 'ai';
const result = await generateText({
model: 'openai/gpt-6-astra',
prompt: '障害時の切り替えを一文で説明してください。',
providerOptions: {
gateway: {
models: ['anthropic/claude-opus-5'],
},
},
});
console.log(result.text);この例では、まず主モデルを利用可能なプロバイダーで試し、すべて失敗した場合に次のモデルへ進みます。別モデルへ切り替わると、回答の内容、速度、料金が変わることがあります。重要な機能では、どのモデル・プロバイダーが応答したかをリクエストログやレスポンスのプロバイダーメタデータで確認する運用にしておくとよいでしょう。
特定のプロバイダーを優先したい場合は order、利用先を限定したい場合は only を使います。order に書かなかったプロバイダーも、指定した提供元の後に候補として残ります。一方、only を指定すると、範囲外の提供元へは切り替わりません。指定した提供元がどれも使えない場合、リクエストはエラーになります(公式のフィルタリング・順序指定の説明)。
導入前に押さえたい注意点
BYOKでもクレジットが必要です。 自分のプロバイダーAPIキーを持ち込めるのは有料枠のみです。自分のキーでのリクエストが失敗すると、Gatewayのシステム認証情報で再試行され、その分はAI Gateway Creditsから請求されます。既存のプロバイダー契約を使う場合も、BYOKの仕様を確認してください。
データの取り扱いは接続先まで確認しましょう。 ZDRはPro・Enterpriseで利用でき、リクエスト単位とチーム単位のどちらでも設定できます。プロンプトを学習に使わせない制限(disallowPromptTraining)は、全ユーザーが追加料金なしでリクエスト単位に設定できます。ただし、どちらも対応しているプロバイダーにしか振り分けられず、該当する提供元がなければリクエストはエラーになります。
自分のキー(BYOK)を使う場合はさらに注意が必要です。ZDRを有効にすると、ZDR対応として登録したBYOKキー以外は既定で使われません。学習利用の制限はBYOKのリクエストには適用されないため、接続先プロバイダーとの契約条件を自分で確認してください(ZDRの公式ドキュメント、学習利用の制限)。
モデルや料金は固定ではありません。 新モデルの追加、提供元、キャンペーン価格、無料枠の対象は変わります。記事に書かれた単価より、利用直前のモデル一覧と料金ドキュメントを優先してください。
まとめ
Vercel AI Gatewayは、複数のAIモデルへの接続を共通化し、ルーティング・請求・利用状況をまとめて扱えるサービスです。AI SDKを使えば、モデルIDを指定するだけで最初のテキスト生成を試せます。無料枠には毎月5ドル分のクレジットがありますが、対象モデルが限られ、レート制限もある点に注意が必要です。実運用では、モデルごとの料金、追加機能、フォールバック時の挙動、プロバイダーのデータ取り扱いまで確認したうえで選びましょう。